はじめに
横浜市青葉区でご相談いただく産後腰痛の患者さんから、このような声をよく耳にします。
出産という大仕事を終えたのに、腰や骨盤のまわりの痛みがなかなか引かない
そんな悩みを抱えていませんか?
「育児で体を使いすぎているから」
「しばらく休めば治るはず」
と自分に言い聞かせながら、痛みと向き合っているお母さんはとても多いです。でも、実はそのがまんが回復を遠ざけているかもしれません。
研究によると、産後3ヶ月の時点でも3人に1人、産後1年が経過しても4人に1人の女性が腰や骨盤まわりの痛みを抱えていることがわかっています。決して珍しいことではないのですが、だからといって「仕方ない」ものでもありません。
産後の腰痛には、ホルモンの変化、栄養不足、筋肉のバランスの乱れ、睡眠不足など、さまざまな原因が複雑に絡み合っています。「骨盤が歪んでいるから」という一言では片づけられない、奥の深い問題なのです。
この記事では、産後の腰痛がなぜ起こるのか、その本当の原因をひとつひとつわかりやすく解説していきます。原因を知ることが、あなたの体を回復させるための大切な第一歩になります。
① 「骨盤の痛み」と「腰の痛み」はそもそも別物
産後の腰痛と一口に言っても、実は「腰の痛み」と「骨盤まわりの痛み」の2種類があり、原因も対処法もまったく異なります。この2つを混同したまま対処しても、なかなか改善しないのはそのためです。
骨盤まわりの痛み
お尻の奥やお尻の割れ目のあたりに感じる、深くズキズキするような痛みが特徴です。片側だけに出ることも、両側に出ることもあります。歩くとき・階段の上り下り・寝返りのときに痛みが強くなりやすく、産後腰痛の中では最も多いタイプです。
腰の痛み
腰椎(背骨の腰の部分)のまわりに感じる痛みで、妊娠前に腰を痛めたときの感覚に近いものです。腰まわりの筋肉が固くなっていたり、押すと痛むことが多いのが特徴です。
この2つの見分け方として、ひとつ簡単なチェックがあります。仰向けに寝た状態で片脚をゆっくり持ち上げてみてください。このとき骨盤まわりに痛みや重さを感じる場合は、骨盤由来の痛みである可能性が高いです。
どちらのタイプかによって、適切なケアや受診先も変わってきます。まずは自分の痛みがどちらに近いかを意識してみることが、回復への近道になります。
② 産後のホルモン変化が関節をゆるめている
産後の腰痛や骨盤まわりの不安定感には、ホルモンの変化が深く関わっています。
妊娠中、体は「リラキシン」というホルモンを分泌します。このホルモンの役割は、赤ちゃんが産道を通りやすくなるよう、骨盤まわりの靭帯をやわらかくゆるめることです。お産のために欠かせない大切な働きなのですが、同時に関節の安定性を低下させるという側面もあります。
問題になりやすいのは、このゆるみが左右均等に起こらない場合です。骨盤の左右でゆるみ方に差が生じると、体重のかかり方にアンバランスが生まれ、腰や股関節に余分な負担がかかり続けます。これが骨盤まわりの痛みや、歩くたびに感じる違和感の原因になります。
また、産後は女性ホルモン(エストロゲン)の急激な低下も起こります。このホルモンは痛みの感じやすさにも影響しており、産後しばらくは痛みをより強く感じやすい状態が続くことがあります。
ホルモンバランスが落ち着くまでには、個人差はありますが数ヶ月かかることも珍しくありません。
「骨盤ベルトをしても痛みが引かない」
「安静にしているのに楽にならない」
という場合は、こうしたホルモンの影響が背景にある可能性があります。焦らず、体の回復に必要な時間を大切にしながら、専門家のサポートを借りることが重要です。
参考:九州理学療法士学会
③ 鉄・マグネシウム不足が痛みを長引かせている
産後の腰痛がなかなか改善しない原因として、意外と見落とされがちなのが栄養不足です。特に「鉄」と「マグネシウム」の不足は、体の痛みや疲れやすさに直結します。
鉄が不足すると、筋肉に酸素が届きにくくなります。 出産時の出血や授乳によって、産後の女性は鉄が不足しやすい状態にあります。鉄が足りないと血液の酸素を運ぶ力が低下し、腰や骨盤を支えるための深い筋肉(インナーマッスル)が疲れやすくなります。その結果、本来は補助的な役割の表面の筋肉が無理をして頑張りすぎてしまい、慢性的な腰の張りやこりが生じます。貧血の自覚がなくても、血液検査で鉄不足が判明するケースは少なくありません。
マグネシウムが不足すると、筋肉がこわばりやすくなります。 マグネシウムは筋肉をリラックスさせるために欠かせないミネラルです。また、脳や神経の興奮を抑える働きもあるため、不足すると痛みをより強く感じやすい体になってしまいます。さらに睡眠の質にも関わっており、マグネシウム不足が産後の眠りの浅さを悪化させていることもあります。
どれだけ体のケアを続けても、栄養の土台が整っていなければ回復は進みにくいものです。どうしても気になる方は産後の健診や内科で血液検査を受け、貧血や栄養状態を一度確認してみることをおすすめします。
④ お腹の深い筋肉と骨盤底筋がうまく働いていない
腰や骨盤を安定させるために、体の奥深くにある「インナーマッスル」と「骨盤底筋」が重要な役割を担っています。この2つは、呼吸に合わせて連動しながらお腹の内側から体を支えるチームのような存在です。
しかし妊娠・出産を経ると、このチームワークが大きく乱れてしまいます。特に経膣分娩では、骨盤底筋が強い力で引き伸ばされるため、筋肉そのものの力が低下するだけでなく、「タイミングよく収縮する」という神経の指令がうまく届かなくなることがあります。
この連携が乱れると、体は無意識にお尻や太ももの筋肉など、表面にある大きな筋肉を使って骨盤を固めようとします。これが慢性的な腰の張りや、歩くたびに感じる骨盤まわりの重さの原因になります。
また、呼吸が浅い胸式呼吸になっていると、インナーマッスルへの指令がさらに届きにくくなります。育児中は緊張や疲労から呼吸が浅くなりがちなため、気づかないうちにこの悪循環に陥っているケースが多くあります。「骨盤底筋を鍛えればいい」というだけでなく、呼吸と連動した動きの再訓練が回復の鍵になります。
⑤ 帝王切開の傷跡・授乳姿勢・後陣痛が影響していることも
産後の腰痛の原因として、見落とされやすい3つのポイントがあります。
帝王切開の傷跡は、皮膚の表面だけでなく、その下にある筋膜や筋肉の層にまで影響を及ぼします。傷が治る過程で組織どうしが癒着(くっついてしまう)すると、お腹まわりの動きが制限され、体が無意識に前かがみの姿勢をとりやすくなります。この姿勢が続くと腰への負担が増し、慢性的な腰痛につながります。傷跡のまわりにしこりや引きつりを感じる場合は、専門家による傷跡ケアが有効です。
授乳姿勢も腰痛に直結します。赤ちゃんを抱きながら長時間猫背になり続けることで、腰や骨盤まわりの筋肉に持続的な負担がかかります。授乳クッションを活用して背筋を自然に伸ばせる姿勢を作ることが、腰への負担を大きく減らします。
後陣痛(産後に子宮が元の大きさに戻るときの収縮)も腰痛の引き金になります。特に経産婦の方はこの収縮が強く出る傾向があり、腰の奥に響くような痛みとして感じることがあります。授乳のたびに後陣痛が強まるのは、授乳によってホルモンが分泌され子宮が収縮するためです。
⑥ 骨盤の臓器が下がると仙骨を引っ張る
あまり知られていませんが、膀胱・子宮・直腸などの骨盤内の臓器の位置が、産後の腰痛に関係していることがあります。
これらの臓器は、靭帯や筋膜のネットワークによって骨盤の内側に吊り下げられるように支えられています。しかし妊娠中の継続的な重みや、分娩時の強い負荷によって、この支えが弱くなることがあります。支えが弱くなると臓器が少し下がり気味になり(これを「骨盤臓器脱」といいます)、骨盤の真ん中にある仙骨(おしりの上の三角形の骨)が持続的に引っ張られるような力がかかり続けます。
この状態になると、腰やお尻の奥に「重だるい感じ」や「引きずられるような鈍い痛み」が生じます。長時間立っていると症状が強くなり、横になると楽になるという特徴があります。また、尿もれや排便のしにくさを同時に感じている場合は、骨盤底の支えが弱まっているサインである可能性があります。
この種の痛みは、腰や筋肉だけへのアプローチでは改善が難しく、骨盤底の機能を専門的に評価できる理学療法士や婦人科への相談が必要です。「なんとなく重い腰痛が続いている」と感じている方は、ぜひ一度専門家に相談してみてください。
⑦ 睡眠不足が痛みをより強く感じさせている
産後の腰痛を悪化させる要因として、見逃せないのが睡眠不足です。夜間の授乳や夜泣きで細切れにしか眠れない状態が続くと、体の回復が追いつかないだけでなく、痛みそのものの感じ方にも大きな影響が出てきます。
睡眠が不足すると、脳と神経系が「危険を感じやすい状態」に傾きます。通常であれば気にならない程度の刺激でも、痛みとして強く感じてしまうのです。また、睡眠不足はストレスホルモンの分泌を増やし、筋肉の緊張を高めます。緊張した筋肉は血流が悪くなり、疲労物質が溜まりやすくなるため、腰のこりや痛みがさらに強くなるという悪循環が生まれます。
さらに、睡眠不足による精神的な疲弊が「痛みへの不安」を強めることもあります。「この痛みはずっと続くのではないか」という不安が募ると、実際の痛みをより深刻に感じやすくなることが知られています。
完全に睡眠を確保することが難しい時期ではありますが、パートナーや家族と協力して休める時間を意識的につくること、昼間に短時間でも横になることが、体の回復力を高めます。痛みのケアと並行して、睡眠環境を整えることも立派な治療のひとつです。
どんな専門家に相談すればいい?
産後の腰痛は原因が複雑なため、一人で悩み続けるよりも、専門家に相談することが回復への一番の近道です。
当院では、産後のお体に関するさまざまなお悩みに対応しています。
骨盤まわりの動きの改善はもちろん、「なんとなく体が重い」「疲れがとれない」といったお悩みに対して、栄養面からのサポートも合わせて行っています。鉄やマグネシウムなど、産後に不足しやすい栄養素についても一緒に確認しながら、体の内側から回復できるようサポートします。
また、腰痛だけでなく尿もれのご相談も承っています。「出産してから少し気になるけど、誰に相談すればいいかわからない」という方も、ぜひ気軽にお声がけください。骨盤底の機能を専門的に評価し、一人ひとりの状態に合ったケアをご提案します。
赤ちゃん連れでのご来院も歓迎しています。
※ベビーカーでもそのままお入りいただけます。ご予約の際にご相談ください。
横浜市青葉区で産後腰痛でお悩みの方、まずは当院にお気軽にご相談ください。






